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【AMWA通信3】新型コロナウイルス座談会

更新日:2020年12月17日





新型コロナウイルスの感染拡大から、私たちは何を学ぶべきなのか──。

医療、疫学、経済の最前線のAMWAの理事による座談会が行われました。

 

【出席者】

小林 弘幸

AMWA代表理事

順天堂大学医学部教授

日本スポーツ協会公認スポーツドクター

順天堂大学医学部卒業後、1992年に同大学大学院医学研究科修了ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属医学研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学小児外科講師・助教授を歴任。国内における自律神経研究の第一人者として、アーティスト、プロスポーツ選手、文化人へのコンディショニングやパフォーマンス向上指導を行う。


玉谷 卓也 

AMWA理事

順天堂大学非常勤講師

1988年より東京都臨床医学総合研究所、93年よりJT医薬基礎研究所、99年より米国CORIXA社に勤務。02年、東京大学先端科学技術研究センター特任助教授に就任。08年より武田製薬に勤務するとともに、順天堂大学医学部客員教授に就任。14年よりソニー(P5社出向)、19年よりエムスリー(現職)に勤務。

現在は、ゲノム情報を生かしたヘルスケアビジネスに従事。主な専門領域は、免疫学、炎症学、腫瘍学、臨床遺伝学。20年以上、免疫、がん、線維症、アレルギー、動脈硬化などの研究を行う。薬学博士。


伊達 仁人

AMWA理事

慶應義塾大学大学院 政策メディア研究科 特任准教授

順天堂大学 医学部 非常勤講師

神奈川県総合計画審議会計画推進評価部会・計画策定専門部会委員

EMC Healthcare 株式会社 CEO

Eagle Matrix 株式会社 CEO




山本 宗孝

AMWA理事

順天堂大学医学部 准教授

医学博士

日本脳神経外科学会専門医

日本脳卒中学会専門医

日本脳神経血管内治療学会専門医・指導医

専門領域は脳血管障害、脳カテーテル治療、医療安全、病院管理




 

不顕性感染であることの困難さ

──日々の感染者数などの動きに不安になっている人も多いなか、新型コロナウイルスについて正しい情報をもち、正しく〝恐れる〟ことが重要です。

さらに「健康」に対する意識を高めていくことも大切なこと。

まずは新型コロナウイルスについて、どのように捉えているのでしょうか?

小林弘幸(以下、小林)

この新型コロナウイルスは不顕性感染が多すぎるのが問題です。つまり新型コロナウイルスに感染しても症状が100%出るわけではない。約8割の人は感染しても無症状であるため、PCRや抗体などの検査の難しさがあったり、感染症とは関係のない一般の医療施設内で院内感染が起きたりしました。

新型コロナウイルスは、風邪に似た症状が続いたあとに、いきなり肺炎に移行して重篤化します。これまでは手探り状態でしたが、ようやく見えてきたのが、この重症化をいかに防いでいくことがカギです。臨床診断を重視して、感染した患者さんを重症化させない医療体制をいかに作っておくかが重要だと思っています。

山本宗孝(以下、山本)

重症化に至るプロセスを知ることで、さまざまな対応が可能です。ウイルスが体内で増殖し始めたときに、適切な治療ができれば重症化が防げるのではないかということです。これまで重症患者に対しては、各医療施設がありとあらゆる治療をつぎ込んできました。そのなかでどんな治療法が有効で、どのようなデータがあるのか。現場としては、そのようなガイドラインが作れるようなレベルの報告がでてくることで、第2波、第3波のときにも対応が可能になると思います。

小林

3月、4月の頃と比べると、今はだいぶ重症患者は減っています。ある程度、対応できているのでしょう。さらに今後は、重症化していく上で、免疫細胞に関わる「サイトカイン」や炎症性物質「インターロイキン6」の動きがわかるといいのですが、そのような研究結果が表に出てきていないようです。

伊達仁人(以下、伊達)

現在、米国の医療機関と日本の医療機関が連携して新型コロナウイルスに関する各種研究が進められています・また、国際的連携で各医療施設が保持しているデータを統合し横断的に解析するという研究も始まっています。しかし、すべての研究がうまくいっているわけではないというのも事実です。

分かっているのは、感染した際、人によってそのリスクがまったく違うということです。大切なのは、重症化のリスクが高い人はどのような人なのかを絞り込むことです。高齢者、糖尿病患者、抗がん剤治療を受けている方はリスクが高いと疫学的にはわかってきていますが、加えて喫煙者も重症化のリスクが高いです。リスクの高い人は、リスク意識をもって、感染を予防することが重要だと思います。

玉谷卓也(以下、玉谷)

欧米と比較しても、日本の感染者数が抑えられている要因として、3つのことが考えられます。

(1)BCGワクチンの全例接種をしていること。結核菌に対する免疫誘導のため新型コロナウイルスとは関係ないという意見もありますが、あきらかにウイルス感染に対する免疫能を上げていることはたしか。BCGワクチンを接種した人は、新型コロナウイルスの重症化率や死亡率が低くなるのではと思っています。

(2)人種差の違い。アメリカの感染者データで、日系人だけが罹患率が低いわけではないので少し違うのかなと考えています。現在、ゲノム情報の違いによって罹患率、重症化率が変わるかの解析研究が進められているので、その報告が待たれます。

(3)新型コロナウイルスのタイプが違う。これが最悪なケースで、日本の新型コロナウイルスは、毒性・感染性などが弱いタイプで、欧米の新型コロナウイルスは強毒性で、感染を容易にしていくタイプではないかということ。新型コロナウイルスの特徴は、変異が非常に早いこと。欧米に拡大していくなかで病原性が高いタイプに突然変異し、それが今後、日本に入ってくる可能性も否定できません(注;最新の研究で、欧米のウイルスはアジアのものに比べて、感染力は強いが毒性は変わらないという研究結果が出ている)。

新型コロナとの共存と経済

小林

欧米のように法的強制力や罰則を伴ったものではない「自粛要請」を日本では多くの人が受け入れました。そこには一定の効果があったと思います。しかし、今後は検査数を増やすことで確実に感染者が増えていきます。そうなると、また学校を閉鎖するような事態が繰り返されるのではないかでしょう?

山本

感染拡大した当初はとにかくゼロリスクを目指して「8割接触下げなさい」という考え方。学校を休校にしたことで感染拡大は抑えられたと思っています。ただし、次に同じことをやる必要はないでしょう。というのも、子供がウイルスを持ってきて家庭のなかで広まったとしても、それは早期に経路が追えるということです。そのような状況ならば、感染拡大を抑え込むことができる。小さいうちに潰していく方がいいからです。

ただし気がかりなのは、新型コロナウイルスに対する偏見です。陽性というだけで「悪者」として周囲が感染者をみてしまう。そのために感染者が正直に言えなくなってしまい感染経路がたどれなくなってしまう危険性も。これでは感染拡大を防ぐために小さいうちに抑え込むことが難しくなる懸念があります。

伊達

感染者が「悪者」という見方、この新型コロナウイルスに対する偏見は問題です。東京などの都会はあまり問題になっていませんが、地方の小さな町で1人だけ感染したときには、その人やその家族は村八分になってしまいます。感染者で実際に回復後、一家で夜逃げしたケースも聞いています。小さな町では、だれか感染したら、すぐに噂が広がってしまいます。新型コロナウイルスに対する意識改革も、感染を広げないための社会的なアプローチとして不可欠です。

小林

これからはウイルスとの共存と言われていますが、インフルエンザと異なり、新型コロナウイルスは第二種感染症。感染した場合、その報告が徹底されています。とくに今は、遊んでいたから感染したと攻撃されることもあり、なおさら言い出しにくい。なかなか新型コロナウイルスとの共存は難しいと思います。経済はかなり落ち込んでいるのでしょう。

伊達

2008年のリーマンショックと比べても、あきらかに現在の経済指標は悪化しています。ところが各国のインデックスはすでに回復しています。これは、各国中央銀行が未曾有の量的金融緩和策をし、市場にお金がジャブジャブに出まわり、行き場のなくなったお金が株式市場に流れたということが背景にあります。

新型コロナで顕著になったグローバルサプライチェーンの脆弱性や、アメリカと中国との経済戦争など、どうみても経済的にはポジティブな要素は見当たらないにも関わらず、株価は上昇しているのは、別の角度からの問題だと思います。

一方で、コロナ以降のニューノーマルで、ビデオ会議システムの「Zoom」社の時価総額が大手航空キャリアの時価総額を上回ったように、DX(デジタルトランスフォーメーション)も加速しまたという面もあります。様々なもののデジタル化で、よりよい生活めざすデジタルトランスフォーメーションは、マイナンバーカードや遠隔医療などの浸透をみてもわかるように、これまでは抵抗も多くなかなか浸透しませんでしたが、この新型コロナウイルスをきっかけに一気に進むことも考えられます。

ワクチン開発と免疫力

小林

コロナ禍においてダメージを受けた経済を建て直すためにも、多くの人の不安感の解消させることが最優先です。飲食店や観光業を回復させようとしても、国民に不安がある段階ではなかなか元に戻りにくい。さらに新型コロナウイルスに感染するかもしれないという不安から定期検診ができないという事態も。なかには自粛生活でストレスを抱えて「コロナ鬱」といわれるようなメンタル的な症状も。そんな不安解消のためにもワクチンの開発が急がれますね。

玉谷

世界各国で開発が進められていますが、これまでもっとも早く開発されたワクチンでも4年の歳月がかかっています。それだけワクチンの治験には時間がかかるのです。また同じコロナウイルス感染症である2002年に大流行した「SARS」や2012年に感染が拡大した「MARS」では、収束が早かったとはいえ、未だにワクチンが開発されていません。さらに、これだけ変異する新型コロナウイルスの場合、日本のウイルスには効くが、欧米では効かない、今は効いても数ヶ月後は効果がなくなる──ということが起きてもおかしくありません。

小林

ワクチン開発にも力を注ぐことよりも、今の段階では有効性のある治療薬に期待したほうがいいかもしれません。さらに、この状況では、それぞれの免疫機能を高めることがカギになってきます。クラスターが発生した同じ場所にいても、感染した人とそうでない人がいる。これは免疫機能の差だと考えています。ところが、免疫機能を上げるといっても指標や数値があるわけではないから一般の方には伝わりにくい。3月、4月には、納豆が免疫力を上げると言われ、スーパーで品切り状態になりました。たしかに納豆は腸内フローラーを活性化させますが、それだけを食べていれば安心という訳ではありません。

玉谷

たしかに医療現場では免疫力という言葉は使いません。一般的に使われている免疫力が落ちているというのは、わかりやすくいえば、免疫機能が低下したり、バランスが悪くなっている状態のことで、、風邪をひきやすかったり疲れの回復度が遅くなったりします。また朝起きるのが辛くなったり、化粧ののりがいつもと違ったりするなど、普段とは健康状態が違うときは免疫力が下がっていることが原因なのかもしれません。

小林

免疫力は個人差がかなりあることがわかっています。免疫機能を高めるためには、それを司る腸内環境を整えることが重要です。そのためには食物繊維と発酵食品が豊富な食事、適度な運動、良質な睡眠などが不可欠です。

この免疫力が数値化できれば、より多くの方に免疫機能の大切さが理解しやすくなると思っています。また、新型コロナウイルスの対策においても、大切な役割を果たしている腸内環境についても、これからも多くの情報を発信していくことが必要ですね。



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